人手不足時代に、定着する就業規則とは~社員を縛るルールから協働を支える基準へ~
□「就業規則はあります。」そう答える事業所は少なくありません。
しかし現実には、
- 報告が上がってこない
- スタッフ間の行き違いが起きる
- ハラスメント問題が発生する
- 利用者や保護者から苦情が来る
- 離職が続く
という問題が発生しています。なぜでしょうか。
それは、就業規則があっても、職場で起きる様々な出来事に対して「どのように考え、どのように判断するのか」という共通基準が十分に共有されていないからです。多くの経営者は、就業規則を「法律を守るためのルール集」と考えています。
もちろん、それは間違いではありません。
労働基準法をはじめとする労働関係法令を守ることは事業運営の前提です。しかし、人手不足が進み、価値観が多様化した現在では、それだけでは十分ではありません。
これからの就業規則には、もう一つ重要な役割があります。
それは、経営者、管理者、スタッフが同じ基準で考え、協働を維持するための共通ルールであることです。
□労働基準法と就業規則の違い
・まず整理しておきたいことがあります。労働基準法は、社会全体に対して国が定めた最低基準です。例えば、労働時間、休憩、休日、賃金、解雇などについて、「ここを下回ってはいけない」という最低限の線を示しています。
一方で、就業規則は事業所ごとに定めるものです。
例えば、
- 遅刻した場合はどうするのか
- 報告はいつまでに行うのか
- ハラスメントをどう考えるのか
- 苦情や事故にはどう対応するのか
など、「当社ではどのように考えるのか」
という基準を定めます。
つまり、労働基準法は社会のルール、就業規則は職場のルールです。そして就業規則は、単なる規則集ではなく、組織としての考え方を示す文書でもあるのです。
□経営者・管理者・スタッフの役割
・職場組織では、それぞれの立場によって役割が異なります。
経営者の役割は、組織として何を大切にするのかを決めることです。
例えば、
- 無断欠勤への対応
- 副業の可否
- 事故発生時の報告基準
- 利用者や保護者への対応方針
などについて、最終的な判断基準を示します。
管理者の役割は、その基準を現場で運用することです。
現場では就業規則に書かれていない出来事が毎日のように発生します。
その時に管理者は、
- 状況を確認する
- 関係者の話を聞く
- 事実を整理する
- 就業規則の基準に照らして判断する
という役割を担います。
そしてスタッフの役割は、
- 決められた基準を理解する
- 状況を正確に報告する
- 必要な情報を共有する
ことです。それぞれの役割が機能して初めて、組織は安定して運営されます。
□就業規則は罰則集ではない
就業規則というと、「違反したらどうなるか」に目が向きがちです。
しかし本来の目的はそこではありません。重要なのは、何か問題が起きた時に、組織としてどのように考え、どのように対応するのかを示すこと です。
例えば、介護事業所で利用者家族から苦情があった場合を考えてみましょう。
スタッフは、「自分が悪かったのではないか」「まず謝るべきだろうか」と不安になります。
管理者は、
- 事実確認
- 関係者への聞き取り
- 記録確認
を行います。
経営者は、
- 利用者尊重
- 法令遵守
- サービス品質の維持
という基準を示しています。その結果、感情だけで動くのではなく、事実を確認し、基準に照らして判断し、行動することができます。このような場面で組織を支えるのが就業規則です。
□これからの就業規則に求められるもの
・人手不足時代の職場組織では、「ルールを増やせば問題が解決する」わけではありません。むしろ必要なのは、経営者、管理者、スタッフが同じ方向を向いて判断できる状態をつくることです。
そのために就業規則は、社員を縛るための文書ではなく、職場で働く人たちが迷った時に立ち返る共通基準でなければなりません。
私は、これからの就業規則を「協働維持装置」として考えています。
経営者が示す基準をもとに、管理者が現場で運用し、スタッフが安心して行動できる。
その土台となるのが就業規則です。
労務管理とは、単に就業規則を作成することではありません。
想定外の出来事が起きた時に、職場全体が共通の基準に基づいて適切に判断し、協働を維持できる状態をつくることです。
